「バランスの料理」ハンバーガーでつなぐ「まち」と「ひと」ーーCouch Potato@北本市

 そのハンバーガーを食べたとき、近所でこんなにおいしいハンバーガーが食べられるんだと嬉しくなったのを覚えています。今回お話を聞いたのは、そんなハンバーガーを食べることのできるCouch Potato(カウチポテト)さん。北本駅東口を出て、右方向に歩いて、駐輪場を抜けると、すぐ左手にお店はあります。お店に入ると、その名の通りーーカウチポテトとはソファーに座ってだらだら過ごす人を意味するーーゆったりと過ごせるソファー席で、ゆっくりとお話を聞かせていただきました。

text & edit by Nariya Esaki



「そこのハンバーガーを食べたら、これが本当のハンバーガーなんだなって思って、それが衝撃で、本当にこういう感じのアメリカンなお店で、そのスタイルをそのまま持っていきたいなと思って。そこで本当にマッチしたんですよね」


 ハンバーガーとの出会いを聞くと、そんな答えが返ってきた。しかしここに至るまでの道のりは決して楽ではありませんでした。


「はじめっから飲食っていうわけじゃなかったんですよ」


 実は、最初は飲食とはほど遠い、アニメーションの制作会社ではたらいていました。それもアニメーションが好きだからではなかったけれど、その業界ならではの過酷さも含めてーー当時は放送が始まると3日に2時間くらいしか睡眠がとれないーー性に合っていたのだとか。でもいろいろなことが重なって辞めざるを得なくなってしまい、そんなときに出会ったのがカフェでした。


「そこのカフェがすごいかっこいいなって思っちゃったんですよ。ただただ見た目と、働いてるのがかっこいいと思って。飲食を始めたのは、そんな動機なんですよ。割と影響されたりとか、やりたいと思ったことをやるタイプなんですよね」


 まさにその言葉通り、その場で求人の募集があるかどうかまで確認して、翌日には面接。そしてそこではたらくことが決まりました。これが最初の飲食店との出会い。


「だから、料理がしたいじゃなかったんですよ。かっこいい、如何にかっこいいかが始まりだったんです」


 その行動力には驚かされますが、それをまるで証明するように、この出会いは一度では終わりませんでした。串揚げ屋さん、お好み焼き屋さん、イタリアン、そして冒頭のアメリカンレストランに至るまで。そんな出会いを何度か繰り返していくことになりました。転職を繰り返すというと聞こえはよくないかもしれないけれど、しかしマッチするものを探すというのは、人生においては必要不可欠なこと。それは決して仕事も例外ではありません。


「長いんですよね。でも、いろんなスタイルがあるから、いろいろやってみないとわからないからね」 

 

 でも実は、それまでは店長職が中心で、ホールに立つことはあっても、キッチンに立つことはありませんでした。それはハンバーガーと出会ったアメリカンレストランも。でもあることがきっかけでキッチンにも立つことになります。


「ある日、料理長がいなくなっちゃう、もう辞めちゃうよって話があって、それが辞めちゃう1、2週間前になっても人が決まんなくて、料理も料理長が一人で作って、補助が作って感じだったから、いなくなったら作り手がいないわけですよ。だから料理をイチから1週間で学んで、本当にそれで料理長がいざ辞めますってなったときに、ぼくが入ることになったんですよ。仕込みから何からほぼ独学で覚えていって、店長やりながら、料理長やりながらってスタイルをその店でつくって。それが料理のきっかけなんですよね」


 ピンチはチャンスというけれど、まさにこれはその見本のような出来事。もちろんそんなに簡単なことではありませんでした。実際、味にこそクレームはなかったけれど「まだかっ」などの怒声が飛び交っていたのだとか。でも結果的に、Couch Potatoのオープンにまでつながるスタートを切ったのは、おそらくこの瞬間だったとのだと思うと、ピンチをチャンスにするその行動力には改めて驚かされます。そしてここから、そのハンバーガーの魅力によりのめり込んでいきました。


「ハンバーガーって結局、バランスの食べものなんですよ。それを自分のオリジナルにしようってなったら、オリジナルの配合になってくるんですよ」
 ハンバーガーの肝は何よりもパテ(お肉の部分)。なかでもこの配合が肝になってくると言います。配合というのは、お肉と牛脂の配合のこと。これを5グラム単位で、わざわざお肉嫌いの人まで呼んで、にくにくしくない、おいしさを目指して、何度もテストを重ねてできたのが今、お店で食べることができるパテです。もちろん、お肉もこだわりにこだわり抜いて、実は埼玉では手に入らない、アメリカンレストラン時代のお肉屋さんから卸しているのだとか。もう食べるまでもなく、その美味しさが伝わってきます。

 そのこだわりは、もちろん、それだけではありません。バンズ(パンの部分)もCouch Potatoさんの近所でもある、老舗の壱番館NAKAJIMAさんに相談して、パテに合うバンズを作っていただいているのだとか。もう話を聞いただけでも、オープンからお客さんが並ぶ姿が浮かんできます。でもこれだけ用意しても、実はスタートは決してうまくいったわけではありませんでした。


「全く読めない場所だったんで、もちろん最初は気合い入れていっぱいバーガーを作るわけです。でも下手したら1〜2キロくらい捨ててましたね。やっぱりそれほど認知されなくて」
 もちろん、ウェブ広告やポスティングも試しはしたけれど、どれもあまり効果はありませんでした。なかなか認知されないまま、コロナが世界を襲ったのは周知の通り。でもマイナスなイメージの強いコロナだけど、これが大きな転機となりました。


「コロナから流れが変わって、知名度がガッて上がりましたね。テイクアウトやってるお店が、北本だとそこまでないじゃないですか。そうすると、どうやって知っていただけたんですかって聞くと、市のホームページとか、北本のハンバーガーで調べたら出てきたよとか、そう言った感じですかね。あとは人から聞いたとかがやっぱり一番多いですかね」


 クチコミが一番効果を発揮するのは北本ならではかもしれない。それでも、たしかにここのところ、市の広報誌を見てもお店の紹介に力を入れているし、コロナ対策の一環で飲食店を中心に使えるクーポン券の配布も各家庭に行っていました。そういった取り組みが知るきっかけとしては大きく作用したひとつのいい例かもしれません。


「まちってぼくは、人と繋がれる場所って思ってるんですよね」

 まちについて聞くとそんな答えが返ってきました。それはアルバイトで入ってくれた人にも伝えているそうです。


「もちろん食でお客さんに来てもらってるのもあるけど、人とのつながりで来てもらって欲しいっていうのがあるんですよね。っていうのもぼくがこのお店で求めてるとこって、ハンバーガーを食べてもらいたいっていうのもあるんですけど、じゃあ、お客さんがうちにきたときに、ここで人と会って、繋がって、趣味があう人だったりとか、お酒があう人だったりとか、ハンバーガーが好きな人が繋がってっていうところにしたいなっていうのがあったんです」


 それはまた、ご自身の経験とも重なります。もともと奥さんの祖父のお店を引き継ぐかたちで始まったお店。だからまったく知らない場所での毎日は決して楽しいことばかりではありませんでした。


「最初知り合いも誰もいないから、正直、家帰ってなにすんのって言ったら、テレビ見るか、ゲームするか、どっかいくか、じゃあ、夜に呑みに行こうってなっても、ひとりで呑みいくっていう話になっちゃうんですよね。でも北本の人は本当に社交的な人が多くて、お店でワイワイなったりとか、他に呑みに行ってもつながって、どんどん仲間が増えてって、本当にお客さんを超えて、お友達になったっていう人もいるし、他のお店で紹介してもらって出会ったりとかで、いろんなコミュニケーションができて、どんどん広がっていって、今、北本きて3年たちますけど、人と出会う、つながる場所だなっていうのが、すごい印象強いですよね」


 もちろんご自身だけでなく、実際に、常連の方が、新たに常連さんを連れてきたりと、そのつながりは果てしなくつづいているのだとか。残念ながら、今はコロナの影響もあって、クラフトビールをなかなか揃えられない状況だけれど、また終息しあかつきには、お昼にハンバーガーを食べに行くのはもちろん、夜に足を運んでみるのもいいかもしれません。


Couch Potato カウチポテト

場所:埼玉県北本市北本1-138 ガーデンコート1F

営業時間:【ランチ】   11:30~14:00(L.O 13:30)

                 【ディナー】  18:00~23:00(L.O.22:30)

定休日:日曜日、月曜日

Instagram:@couchpotato0410

ホームページ:https://www.couchpotato.jp