あの体験を届けたい。わずか1年でオープンした、その原動力ーー恋人は麻婆豆腐@北本市

「恋人は麻婆豆腐ぐらいの人がいてもいいじゃないですか。まずは、おれが第1号だ。っていうのがありましたね」

店名の由来を聞くとそんな答えが返ってきました。でもたしかに「好きな食べものはなんですか?」そう聞かれてあなたはなんと答えるでしょうか。ラーメン?お寿司?それともカレー?たしかにそこで麻婆豆腐と答える人は少ないかもしれません。でも「麻婆豆腐は好きですか?」と聞かれると好きです。と答える人はきっと少なくないでしょう。でも冒頭の質問にこそ麻婆豆腐と答えて欲しい。そんな思いで、麻婆豆腐専門店を埼玉県は北本市にオープンした恋人は麻婆豆腐さんにお話を聞いてきました。

text & edited by Esaki Nariya



「飲食店ではアルバイトもやったことがなかったです。自分がやるとは思ってなかったから、「いらっしゃいませ」も言ったことがなかったですね」

 初めて「いらっしゃいませ」を言ったのは、この恋人は麻婆豆腐をオープンした、その日。飲食店と言うと、アルバイトでもなんでもどこかで下積みを経験して、開業というのがふつうだろうと思っていただけに、意外な回答にびっくり。でも実は今回お話を伺った店主、沼倉さんはもともと公認会計士で働いていたのだとか。そんな沼倉さんがどうして麻婆豆腐でお店を開こうと思ったのでしょうか。まずはそんな出会いから聞きました。

「新卒で入った会社が横浜だったんですよ。そうすると打ち上げとかで中華街いくことが多くて、そこで初めて、いわゆる四川麻婆豆腐を食べて、なんじゃこれは旨い!ってなったのが出会いです。味はもちろんですけど、体験ですね。まず届いたときの香りがすごくいいじゃないですか。それで食べて、しびれ、そのへんが今まで経験したことがないなっていうのがあって、それが衝撃的でしたね」

 すべての始まりはここからでした。でもこの頃は、まさかお店を出すなんて未来は想像もしていませんでした。それからは、ただただ四川風麻婆豆腐が好きで食べ歩きをしていたくらい。でも転機は突然訪れました。


「コロナになって、ご多分にもれず自炊するようになったんですよ」

 それまでは一切していなかった自炊を始めまたのは、2020年3月頃。それも最初は、チャーハンから始まり、回鍋肉と、一品料理を極めていきました。そしてようやく四川風麻婆豆腐にたどり着いたのは3つ目の料理でした。オープンは2021年11月。楽器を初めてさわって、デビューまで1年ちょっとと思うと、まるでパンクバンドのような早急さには驚いてしまいます。いったい何に突き動かされたのでしょうか。


「何かやりたいなっていうのは2〜3年前からあって、何かやりたいけど何にもできないっていう自分がいやだった時期があったんです。それで麻婆豆腐を作ってみて、これかもしれないって思ったとき、けっこう嬉しかったんですよ。これならチャレンジはできる。失敗しようとも。とりあえずなんかやることはできたぞみたいな感じだったんで、とりあえずやろうってすぐなって、突き進む感じでしたね。そこに迷いはなかったです」


 開業資金はその2〜3年前から少しずつ貯めていました。でも四川風麻婆豆腐を作り始めたときは、お店をオープンしようとは思ってませんでした。それだけに友人に振舞ったりするなかで、自分のやりたいことを見つけたことが大きかったのかもしれません。それでも1年ちょっとでのオープンには驚いてしまいますが、その原動力はやはり四川風麻婆豆腐に出会った体験が大きいのかもしれません。それはもともと東京都で生まれ育った沼倉さんが北本市でオープンしようと思った理由とも重なります。


「北本に出した理由として、横浜中華街が遠い人にも、近場で手軽に本格的な麻婆豆腐を食べて欲しい。なかなか普段食べれない人に食べてもらいたい、良さを知ってもらいたいっていうのがありましたね」


 そしてこの話はさらに続きます。恋人は麻婆豆腐さんのお店の名前には、「埼玉北本本店」と付いています。初めての店舗に北本本店と付けているのにはもちろん理由があります。


「その四川麻婆豆腐の魅力をたくさんの人に知ってもらうっていう夢は、ここでやってるだけでは叶わな いじゃないですか。だからやっぱり2〜4店舗は出したいっていうのがあるので、本店ってつけました」


 そしてまだオープンして2ヶ月ほどしか経っていないのに、実はもうアルバイトさんも採用して、お店に立っています。まだ募集はしているので、ぜひ麻婆豆腐が好きな方は一度、連絡してみてもいいかもしれません。オープンしたばかりの本店で働けるのは貴重な体験になるはずです。


「テーマってなんでしたっけ?「好き」と生きる、「まち」と暮らすか。まさに「まち」と暮らしていると思いま す、北本の方々は。そこは間違いなく言えると思います」


 「まち」について聞くとそんな答えが返ってきました。これまで練馬、横浜、赤坂、恵比寿と住んできた沼倉さんにとって、実は北本は縁もゆかりもない場所。それでも横浜中華街から遠い場所を探してたどり着いたのが北本でした。


「北本にきて、お店はじめて感じるのは、北本の人って、北本好きですよね。地元愛がとんでもなく強いなっていうのは毎日感じますね。ぼく自身が北本に引っ越してきてから間もないので、どんなお店があるのかとか、知らないから、お客さんと話すなかで、いろいろ聞くんですけど、1聞いて、300ぐらい返ってくるんですよ。お店の飲食店情報はもちろんですけど、どんな人が住んでてとか、みなさんメチャクチャ知ってて、これまでそういうのは感じたことないんで、そういうの聞いてると、こういう「まち」もいいなっていうのは思いました」


 それはいいお客さんに恵まれていることもあるかもしれません。でもそんなお客さんを惹きつけているのは、そのインパクトの強い店名と、何より麻婆豆腐の味あってこそだと思います。


「原材料は99%四川省のものを使ってますね」

 

 もともとはコロナをきっかけに始めた自炊で作った麻婆豆腐は、研究に研究を重ねて、オープンを迎える頃には、四川省の原材料を使用することで、より本場の味になりました。もちろんそこには四川料理の構成要素である麻(マー)、辣(ラー)、燙(タン)、酥(スー)、嫩(ネン)、鮮(シェン)、香(シアン)に気を配られています。それも飲食店経験がないとは思えない手際の良さで、目の前に届けられる四川風麻婆豆腐は、まだ本場を体験していなければ、一度は体験してみるのかもいいかもしれません。



恋人は麻婆豆腐 埼玉北本本店

場所:埼玉県北本市本町3−9

営業時間11:00〜14:00/17:00〜21:00

定休日:木曜日

Instagram:@koibitomapotofu

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