ただひとりで住むのもつまんないから、じゃあお店でも始めちゃえばいいやっていう。
タナカホンヤ
text & photo by Nariya Esaki
駅を出てるとすぐに寺院が並ぶ根津らしい通りにタナカホンヤはある。しかしタナカホンヤの始まりはここではなく、意外な場所だった。
「たまたま旅行に行ってて」
旅行先で本が好きな店主の田中さんは以前にも訪れたことのある本屋さんに立ち寄ったそう。
「そこが貸し古本屋っていう企画をやってて、1ヶ月借りれる人を募集してたんです」
ただ旅行に行っていただけなのに、なんと、すぐに交渉して借りるようにしたとか。
「その場所って観光地であり、地元の人の買い物する場所でもあるので、いろんな人が通る道なんですよ。ここでお店やるってなかなか出来ないなって思って」
その場所は沖縄の那覇の公設市場。確かに人通りの多い場所だ。でも古本屋を貸すのではなく、場所貸しのため本は自分で用意しないといけない。その頃はまだ本屋をやっていたわけでもないのに一体どうしたのだろうか。
「家にあった本を段ボールで送って、それを並べて売りました」
しかも僅か1ヶ月半という短い期間にも関わらず地元の新聞にも載り、本も思った以上に売れたとか。それで東京に戻って根津で始めたのかと誰もが思うかもしれないが、意外な答えが返って来た。
「いや、それをやったところでじゃあ古本屋になろうとかっていう気持ちは全然なかったですね」
それもそのはず。だって本屋さんになりたいと思ったことはないのだから。あくまでたまたま旅先で、たまたま貸し古本屋さんを見つけて、たまたま家に本があったから古本屋をやっただけなのだ。でもじゃあ何でまた古本屋をやろうと思ったのだろうか。
「ぼく実家に住んでたんですけど、実家が引っ越すっていう話で、じゃあひとり暮らししようと思って。でもただひとりで住むのもつまんないから、じゃあお店でも始めちゃえばいいやっていう、なんかそんなノリで始めました」
ノリで始めたとは言え、根津を選んだ理由を聞くと本好きならではの答えが返って来た。
「このエリアは古本屋さんもあったり、古本市をやったりとか、町全体で本に関わる仕事の方とか多いので。あと古い町並みとか路地が残ってたりするので、まぁ単純に好きなエリアだったのでここにしました」
(つづきます)
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