「消去法で辿り着いた場所」cafe kipferl@阿佐ヶ谷

消去法で飲食だったら続けられるかなって感じですね。実際、今も続いてますし。

cafe kipferl


interview by Kotomi Akiba

text & photo by Nariya Esaki



「食の一期一会」

それはかつて中野のウナ・カメ・リーベラの頃からそうだった。




もちろん本当にメニューがないわけじゃない。店に入れば黒板にメニューは丁寧に書いてあるし、いつも安定したおいしさを提供してくれる。定番のナポリタンやカレーもある。でも毎日でも行かない限り、行くたびにメニューはいつも新鮮さを保っている。それはそのまま季節の味と言ってもいいかもしれない。いつも同じ味を提供してくれるチェーン店もいいけれど、たまにはそんな店に足を運ぶのもいいかもしれない。




「振り返れば全部あれやってたからこれ今は平気なんだとか、あれがあったから今このお店こういう問題があっても解決できるんだとかっていうのはいっぱいありますね。やっぱ無駄なことは一切なかったですね」


メニューが行くたびに変わる。そんなお店だからきっと、昔からこういう料理の世界に入ろうと頑張っていたに違いない。そうわたしも思っていたけれど、でも現実は案外そうでもない。


「そもそも楽器の仕事をしてたんです」


実はもともとの夢は楽器の職人。オリジナリ楽器を作ったり、修理をする仕事。それもそのために空港で2~3年仕事をして貯めたお金で専門学校にまで入ったけれど、多くの夢がそうであるように、夢と現実のギャップに悩んだ。


「若かったんで、自分がつくったのだけを一生懸命売りに行けばいいじゃないかっていう考えで、社長はそうしたいんだったら、まず毎日の会社を運営していくお前の給料を払うだけの何かを売ってくんなきゃいけないんだから、いろんなところから仕入れたものを売りにいかなきゃいけないって言ってて、それが全然わかってなかったんですよね。そこでケンカになって」


辞めて一度、実家に帰ることにする。そのことがまさか飲食業界に入るきっかけになるとは思わなかった。


夢じゃなかっただけに。


「仕事どうしようって思ってたときに学校に行ってた頃にバイトしてた飲食店があって、そこも個人店なんですけどね。そこの社長にうち来る?って言われて、それだけです。きっかけは。ああ、じゃあ行きますっていう(笑)」



だから出たのは調理の学校ではなく、楽器の専門学校。つまり調理の腕はかつてのバイト先で身に着けたと言ってもいいかもしれない。


「現場にいて自分で勉強すれば、調理師免許はもちろん取れるので、そこで取っちゃってなんだかんだ気づいたら、7、8年いたんです」


しかしそこでまた立ち止まることになる。


「自分の居場所ってどうなんだんろうって思って。同じ店に8年近くいたら、その店でやることって自分にとっては、完全にマンネリなんですね。自分が経営者じゃないからやれることっていうのも限界があるし、そのお店のスタイルを変えちゃうわけにはいかないんで。そこに新しい人が来てフレッシュな気持ちでやってると、経営者の立場から見れば、やっぱ自分ってなんなのよってなって来るんですよ。給料高いわ、なんとなくやってるわって(笑)」


もちろんそこにはフレッシュさにはない安定の技術はあるのだろうけれど、実際に社長に相談すると、楽器の仕事のときに一度は経験した――当時は若気の至りだったが――クビをもう一度経験することになる。でもことのときの経験がキプフェルを始めるきっかけになったのも確か。


「別にそれを続けてたからと言って、ずっと飲食をやってると思ってなかったんです。でも気づいたら8年やってて、このままやるんじゃないのっていう程度ですね。たぶんほかの仕事じゃそうはいかないだろうなって。楽器の仕事もダメだったし、机に向かって1日パソコンやってる仕事とか絶対できないんで。そういう中から消去法で飲食だったら続けられるなぁって感じですね。実際、今も続いてるし」



でももちろんその二度目のクビのあとにキプフェルをはじめたわけではない。むしろまだ苦難は続いていた。次に入った会社はグループ会社の不祥事のために倒産。


「ここは今月いっぱいで閉めるからってなって、それで必死に見つけたのが新宿御苑のお店で、オープニングスタッフだったんですけど、そこでユキちゃんと出逢ったんですよ」


そこで出逢ったユキちゃんがキプフェルの最初の1年を支えてくれることになる。その倒産がなければ出逢わなかっただろうし、それはつまり今のキプフェルもあり得なかったかもしれない。


「そう考えると人生なるように流されてると、意外とうまくいくのかもしれないですね。もちろん、そのときそのときはつらいですけどね」


でもそれは流されるだけじゃなく、お店を開くという大きな決心をしたからこそ、今言えることだとなんじゃないだろうか。





(つづきます)




cafe kipferl


営業時間:11:30~23:00

定休日:水曜日

住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷南3-3-3

ホームページ:http://kipferl.tokyo/


Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。