「あそべるまち」北本市観光協会@北本市

 これを書いたのはもう1年も前の話。まだまだ北本のことを全く知らない中で、取材をしたのがはじまり。もうツカノマもなくなってしまったし、雑木林の会のログハウスはプロの手も借りて、しっかりしたものが出来上がりつつある。

 この頃は、まだ"森めぐり"も"秋の収穫祭"もお客さんとしてすら、参加したことがないままに話を聞いている。でもだからこそ、この取材はそのあらゆるはじまりとしてそのまま収録したかった。何しろここから北本はうそのように面白くなっていくのだから。


text by Nariya Esaki


「あそべるまちですかね」


 北本に来て2年半が経った頃。

 

何もない。とまでは言わないまでも、北本は決して栄えているとは言えないと思っていた。だからまさかそんな言葉が返って来るとは想像さえしていなかった。最も、都心には電車で1時間もあれば出られるし、生活する分には困らない程度にスーパーをはじめ、チェーン店もそろっている。車で30分もあれば大きなモールにだって行くことができるし、通いたくなるお洒落なお店だってある。まぁ、要するにどこにでもある「郊外」の風景がそこには広がっているのだ。いや、だからこそ「あそぶ」場所はあくまで都内で、ここではないと思っていた。

 最もそのどこにでもある「郊外」にこそ、人の暮らしが宿っているのだけど。だって暮らしは本来「住む場所」にこそあるはずなのだから。


 北本市観光協会は観光協会としては珍しく、市が主導する協会ではなく、民間主導型の観光協会。最も多くの観光協会のと同じように市から補助金は出ているものの、2012年には観光協会としてより大きな展開を目指して、もともと市役所内にあった場所から出て独り立ちしている。そのタイミングで観光協会に入ったのが今回お話しを伺った岡野さんだ。


「もともと西口の駅前をつくるときにワークショップをやってたんですよね。それも2年くらい」


 北本駅を新しくする際に、東口は国道も通っていて、チェーン店も多く立ち並ぶつくりだったため、市役所や学校などが立ち並ぶ西口は、むしろ逆の方法論で考えられないかとワークショップが始まったのだとか。


「駅前ってどういった場所であるべきだろうとか、市の顔であるべきじゃないかとか考えながら、活動が見えるようなかたちで始まったんです。だから場所自体も北本の顔になるような人たちがマーケットやったりとかできる場所にしようと。
 北本の魅力って何だろうって考えたら、やっぱり雑木林が魅力だから、実は駅前にもちょこちょこ林があると思うんですけど、あれは雑木林から持って来たんですよ」


 この雑木林が北本の魅力のひとつ。実際この雑木林を活かして「森めぐり」と題したイベントが毎年、開催されている。

 

 そもそも岡野さんは当時まだ大学生。にも関わらず、いやだからこそと言ってもいいかもしれないが、同級生何人かと一緒に北本で何か面白いことが出来ないかとデザインプロジェクトを立ち上げ、祭りに参加したり、古い建物を借りて改装したりとやっているうちに、このワークショップの一環でやっていたアートプロジェクトにも関わるようになる。


「そのアートプロジェクトで面白不動産っていうのを担当して、空き地とか、家とか、使えるものを全部ピックアップして、そこでなんかやろうって。団地を使ったり、家を持ち上げたり、アーティストを呼んでやったんですよね。その面白不動産の一環で今のツカノマの場所を見つけたんです。そのときにアートプロジェクトでお借りして、そのあとL-PACKが県の補助金で改装してくれて、アトリエハウスになったんですけど、今はツカノマっていう場所に変わりました」


 そのときに来てもらったアーティストが北本を気に入って、そのまま住み着いてる人もいるとか――それも中には世界的に活躍されている著名な方も――それはどこにでもありそうな「郊外」の街並みに見えて、実は見えない魅力が詰まっているという何よりの証拠かもしれない。

 ちなみに岡野さんはこのときの一連の活動がきっかけで、観光協会に誘われて入ることになったのだとか。そんな北本市観光協会の仕事は、もちろんまちの魅力を発信することだ。


「"暮らしと場の習慣を観光に"をテーマでやっていて、お客さんが北本に来て頂いて、何か北本の魅力を知って頂くのと同じように、住んでる方が北本の魅力に気づいていて頂く。北本の日常ってこんな面白いことがあるよねっていうのを、みなさんと一緒に探っていくという試みをしています」


 この皆さんというのが、先にも出て来た雑木林の会をはじめ、無農薬でお米をつくっているわらの会など、日常的に北本の魅力をつくっている団体のこと。実際にそれをイベントというカタチで発信している。

 そのひとつが春に行われる『森めぐり』、北本に点在する雑木林をはじめとした自然を舞台に、お母さんたちによるプレーパークから、マルシェ、レストラン、そしてライブ会場に至るまで、その名の通り森をめぐるように楽しめるイベントとなっている。


「地元の活動を応援したいっていうのが大きいですね。持続的に観光を消費だけじゃなく、観光を作り出すっていう観点で、あんまり奇をてらったものじゃなくて、日常的にある、たとえば雑木林がやってる薪をつくる体験とか、わらの会の稲刈りの収穫体験とか、そういったものをまちづくりとしてできないかなっていうのを試みてますね」


 2018年の"秋の収穫祭"では駐車場が足りなくなるという嬉しいハプニングまで起こったのだとか。それだけこれまでの消費するだけの暮らしではなく、つくる暮らしをしたい人が増えているということかもしれない。そういう意味では都内との距離もちょうどいい北本市は、まさにちょうどいい「まち」かもしれない。

 何しろ"あそべるまち"なのだから。もちろん、それは消費社会の象徴のような――高度経済成長の象徴でもあった――ネオン街のような大人の遊べる街じゃない。


「北本がどんなまちかっていうと、あそびができるまちかなと思ってて。たとえばプロじゃなくても農作業ができるとか、わらの会もみんなプロじゃないんですけど、米を作ったりとか、雑木林の会もプロじゃないんですけどログハウス作ったりするんですよ。生きてるうちにでいるんだろうかとかいいながら、それもイチから。
 面白いですよね。プロじゃないけど遊びっていうか、プロだと限られちゃうじゃないですか。それしか出来ないみたいな。だけどそういう自分の興味のある分野に対して、どんどん入っていけたりとか、それに対してサポートしてくれる人がいたりとか。たとえば、お母さんたちがやってるモリトコの雑木林のプレーパークも雑木林の会にお願いして、できるようになったんですよね」


 確かにひとりやひとつの団体でできることは限られている。そこに協力してくれる人や応援してくれる人がいれば、拡がりが持てるのも確か。北本にはそれを可能にしてくれる緩やかなつながりがあるのかもしれない。


「今、手作りラボって言って地域の部活動みたいなのをやりたいねって言ってやってるんですよね。なんか"まちづくり"っていうとハードル高いじゃないですか。でも地域でそういう活動したい人はクラブ活動みたいに出来れば、地域と緩やかに繋がっていけるんじゃないかなと思ってるんですよね。だって不耕作地で草ぼうぼうになっちゃうよりは、なんか使った方がいいし、木だってそうじゃないですか。そういうのをまちであそべるっていいかなって。自然とでも人とでも、プロじゃなくても地域でできるみたいな。そういうの楽しいですよね」


 その地域との最初の一歩が分からない人も多いと思う――わたし自身そうだった――でも北本には幸いにも"かんちゃわナイト"と題されたオープンなミーティングが毎月第二金曜に観光協会で密かに開かれている。もし少しでも興味を持ったら、19時半頃に訪ねてみるといいかもしれない。きっとそこから緩やかな拡がりが持てるはずだ。



(おわり)



北本市観光協会


住所:埼玉県北本市西高尾1-249

営業時間:9:00~17:00

定休日:土曜日

ホームページ:http://www.machikan.com/





 


Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

kosa10magazine

「好き」と生きる、「まち」と暮らす。