「まちが人生の一部になるまで」コーヒーとタイヤキのカラク@北本市

 取材は土曜日、着いたのは10時前、オープンは9時半なのにもうお客さんが入っていた。ひとりで朝をたのしむ。贅沢な時間。そんな時間をたのしめる場所が近所にあるのは嬉しい。とは言えこの日は奥さんがお子さんの野球の試合を観に行っていたこともあって店主ひとり。ゆっくりと話は聞けなかったけれど、お客さんの声も交わる取材は、むしろカラクらしさを感じられるそんなひとときだった。


 「今年の秋でもう13年ですね、気が付いたらって感じで」


 13年、それは13年前の自分を想像してもらえれば――当時好きだった音楽や映画、ファッションを思い出せば一瞬で接続してくれるかもしれない――それがどれだけ長い年月か分かるだろう。もちろんカラクのある清水ショッピングセンターも13年前とはその姿は大きく変わってしまった。かつては向かいに並ぶ4つのテナントも全て埋まっていたけれど、2018年の春に人気のパン屋さん(イエローナイフ)が浦和に移転してからというもの清水ショッピングセンターの看板もなくなり、すっかり寂しい場所になってしまった。もっとも今、また新たな動きが産まれそうではあるけれど。またそれは別の機会にでも書くことにしよう。


「タイヤキってワードがなんとなく浮かんで」



そもそもここに来る人の多くは、その名前に惹かれるのかもしれない。


"コーヒーとタイヤキのカラク"


誰もがその組み合わせに疑問を持つかもしれない。けれど、一度味わってみるとその魅力が癖になり何度も足を運ぶ。おそらくそんなお客さんがたくさんいるのだと思う。


「具体的な目算はなかったんですけどね」


そうは思えないほど、少なくとも北本にはカフェは少なくないけれど、たい焼き屋さんはこのカラクを別にすれば見当たらないほど、この年月でひとつのスタンダードになったのかもしれない。だからこそ周りの景色が変わっても、ここにカラクがいられるのだと思う。


もちろん、カラクの魅力はタイヤキだけじゃない。コーヒーもそのひとつである。その日、偶然居合わせたお客さんの言葉からもそれは充分に計り知れる。


「コーヒーは、東京のBEAR POND(おそらく下北沢のお店)っていうすごくいいエスプレッソを出すお店があるんだけど、そのお店とこのお店のコーヒー豆だけで充分」



でも実はコーヒーは、ただただ遊びでやっていただけのものだった(それも多くの奥さんが嫌がる手焙煎で)。しかしやっているうちに、だんだんこれでやっていけるかもしれないと思い始めたのだとか。


「結婚して5、6年経ってて、子ども欲しいなと思ってたんですけど、できそうにもないって感じだったんで、ふたりで暮らしていく分ぐらいだったらできるかなっていう。なんとなくですね」


なんとなくで始めたとは言え、実は1年後にはまさかの朗報が舞い込む。


「途中で授かって、そこからはもう...もっとゆるくふたりでやるつもりだったんですけど、いきなりなんかこう、方針転換でもないですけど、ひたすら突っ走るしかないなって」


しかしまだ開店して1年、引き返そうと思えば引き返すこともできたはず。正社員に戻ろうとは思わなかったのだろうか。


「それは全然考えなかったですね。当時34、5歳で仕事に慣れちゃって面白くなくなってたっていうのもあるかもしれないですけど。場所的にもお客さんに恵まれたっていうのもあって、なんとか食べていく分だけの目処がついて」


確かにカラクのある清水ショッピングセンターは、駅から市役所や児童館などを繋ぐ導線にあるだけに、市内では稀に見る好立地かもしれない。実際、わたしも子どもを連れて児童館の帰りによく通る道でもある。


「だから店をたたんで会社勤めをしようっていうのはなくて、もうこれでいくしかないよなっていいうのは割と早めに腹をくくってましたね」



それはむしろ子どもを授かったからこそなのかもしれない。そこから実はコーヒーとタイヤキ以外にも、お昼にはご飯もののランチを出すなど、いろいろな試行錯誤を重ねていった。しかし名前がそうさせたのか――今でも実はいくつかメニューはあるのだけど――やはり多くの人はコーヒーとタイヤキ、あるいは店主との会話をたのしみに訪れている。


「ずっと北本に住んでたんですよ。社会人になってからは」


もともとは埼玉県日高市出身。北本に来たのは職場が近いからという、ただそれだけの理由だった。でもきっかけになった会社は慣れたからという理由で辞めてしまったけれど、東口~西口と転々としているうちに愛着が湧いたのか、ただ手近にあったからなのか、お店の場所としても北本を選んだ。そして気づけばもう人生の半分近くを過ごす場所になっていた。


「外に仕事で出てらっしゃる方と違って、自分の住んでるところが仕事してる場所なんで、生活とか、まぁ人生ってまではいかないでしょうけど、でも全部にはなってるかなって思いますね」


その言葉を聞くと、もしこれから周りの景色が変わったとしても、カラクだけはここに残っているような気がする。コーヒーとタイヤキという愛らしい組み合わせと、その匂いに釣られて、またひとりまたひとりとお客さんが足を運んでいる姿がそこにはある気がする。


ひょっとするとこれを読んだあなたも、そんなひとりになっているかもしれない。


(おわり)



コーヒーとタイヤキのカラク


住所:埼玉県北本市中央1丁目8-1-105

営業時間:9:30~18:00

定休日:火曜日

ホームページ:https://coffee-taiyaki-karaku.business.site/




Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。