イタリア料理からピザ屋へーーフットワークが軽くなった理由 trattria icchia@北本市


ニュースを見ていると、飲食店への風当たりがつよい。自粛に次ぐ、自粛...マスクをしてい るだけでも気がめいるのに、飲食店の方はいったいどんな気持ちではたらいているんだろ う。そんなことを思いながら、今回のインタビューをすることに決めました。でも通常なら お店に足を運ぶのに、今回はオンラインでのインタビュー。なぜオンラインでのインタビュ ーになったかは本編を読んでいただくとして、お話をうかがったトラットリア・イッチアさ んは、このコロナの影響をつよく受けたお店のひとつ。だからこそ、これからの飲食店のあ り方、そして、はたらき方が見えるようなインタビューになりました。

edit & text by Nariya Esaki


「二十歳の頃に何気なく始めたアルバイトの延長でここまで来たって感じなんです」


飲食店をはじめたきっかけを聞くとそんな言葉が返ってきました。もちろんすべてがうま くいっていたわけではありません。イッチアさんのコンセプトであるイタリア料理をずっ とやっていたわけでも、料理一筋できたわけでもなく——アパレルではたらいていことも あるそうです——でもたどりついたのは結局、二十歳のときにはじめたイタリア料理でし た。


「やっぱり料理の方が性にあってるかなと思って、こっち来た感じですね」


そう聞くと、まるで入念に入念に計画を練って、お店をオープンしたと思ってしまいます。 でもそのこたえは思いのほかあっさりしていました。


「オープンもたまたま知り合いの居酒屋さんが空いたんで、オープンさせたっていう感じ ですね」


たまたま...とは言っても、もともとこの生まれ育った北本市でひと花咲かせたいという想 いはありました。その知り合いのお店にも、空いたらやるということはよく話していたそう。 だからまったくのたまたまではなかったけれど。あっさりはじまった店舗経営は思ったよ うにはいきませんでした。


「とりあえずイタリアンっていうコンセプトはあったんですけど、それ以外が浅かったん ですよね。やっぱり考えが甘かったなって、今、改めて思いますね。お店を始めてみてわか ることが、いろいろ出てきたんですよ」


大きな問題のひとつは立地。たしかに駅から徒歩 10 分程度と、都内なら決して遠い距離で はないけれど、店がつづいていていない郊外では、決して近い場所ではなくなってしまいま す。そうすると車で行くことがベースになるけれど、駐車場も4台しか止めることができま せん。でも4台止まればお店が満員になるかというとそういうわけでもありませんでした。


「だから店舗を構えて待ってるっていうつらさが、ほんとに強かったですね」


そしてこのコロナの影響も強くうけ、店舗を閉めることにしました。


「また新たに店舗を構えるっていう資金もなかったんで。駐車場にも左右されないような、 移動販売にした方がこれからはいいんじゃないか、まぁ、コロナが後押ししたっていうのは ありましたね」


店舗からキッチンカーへ。それは決してかんたんな決断ではなかったけれど、インタビュー をしていると、オンラインとは言え、その晴れやかなトーンは伝わってきました——この日 は出店もなかったため、オンラインでの取材となったことを付け加えておきます——実際、 店舗経営とキッチンカーで何が変わったのだろうか。


「やっぱり一番いいところは、フットワークが軽いところですね。最初の初期投資なんかは、 お店を始めるときと比べると。3分の1で済んでるんで、お店を考えるよりはトライしやす いですよね。固定費は工夫次第ですけど、移動販売って結構売り上げの何%っていうのが主 流なんで、でも売り上げによって変動してくれた方が店にとってはありがたいですね。やっ ぱり固定の家賃は、売れても売れなくても払わなくちゃいけないんで」


その店舗経営よりもトライのしやすさがあるからか、固定費に悩まされたコロナの影響か、 たしかにキッチンカーはまちでよく見かけるようになりました。


「やっぱり店舗で構えてたときはイタリア料理っていう、コンセプトと、東京でやって来た っていう自負もあったんで、頭がカチカチな部分はあったと思うんですけど。移動販売にな ってイタリア料理っていうよりは、ピザ屋っていう感じになって。ちょっと気持ちが軽くな りましたね」


もちろん、決してピザを軽視しているわけはありません。あのちいさなキッチンカーの中に、 薪釜まで積んでいることを考えれば、その味は本格的。


「やっぱり、なんでしょうね、店舗よりは売り上げに貪欲になったっていうか、マリトッツ ォとか、ああいうことって店舗だと難しかったかなって思うんですよね。あれもローマ産ま れなんで、イタリア料理っちゃ料理なんですけど、たとえば、これからマリトッツォに抹茶 クリームをつめたりとか、餡子つめたりとか、そういう和テイストのこともできるのかなっ ていうのはありますね。夏はかき氷もやろうよとか、これはたぶん店舗で、ああいうね、店 がまえだとできなかったと思うんですよ」


たしかにお店側だけでなく、お客さんとしても、イタリア料理のお店に行くというと、いつ も行っているお店よりもやや期待値は上がって、かまえてしまうところもあります。きっと そこにこたえようとしてくれているお店は多いのだろうけれど、キッチンカーならではの 軽やかさは、そこではないことが何よりの魅力なのかもしれません。


「簡単に言えばふるさとってことなんですけど。生まれ故郷なんで。あとはやっぱり大自然 ってことですかね」


まちについて聞くとそんなこたえが返ってきました。


「北本のことを同級生とかと呑みに行ってしゃべると、やっぱ北本って何にもないよねと か、そういう愚痴から始まるんですけど、都内通ってるときはそう思ってたんですけど、お 店始めてみて変わったというか、確かに何もないんですけど、何もないから逆に作りやすく て。自然を生かしたような、商いだったり、そういう方向にシフトしていくのがいいんじゃ ないかなって思ってるんですけど。今、あの岡野さん(*)とかの暮らしの編集室がやって るイベントとか、ああいうのがもっと発展していくと素晴らしいことになっていくのかな と思いますね」


もちろんその先には、イッチアさんをはじめとしたキッチンカーが並んでいて、北本の農家 さんの食材が使われていて..想像するだけでもそれはいい景色が見えてきます。でもたし かに、それは何もないからこそできることなのかもしれません。少しでも気になった方は、 まずはイッチアさんの SNS をフォローして、イッチアさんのピザを味わってみてください。


Trattoria Icchia トラットリア イッチア

場所:北本市を拠点に活動中

Instagram:@trattoria_icchia

Facebook:https://www.facebook.com/TrattoriaIcchia



Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。