親でもなく、先生でもない、駄菓子屋みたいなクレープ屋さんーーQoo's Cafe@北本市

「特にクレープが好きということは全くなくて、むしろ嫌いな食べものだったんですよ」

 インタビューはそんな衝撃の一言から始まった。お店をやっているからといって、誰しも「好き」から始めているわけではないし、できることが必ずしも「好き」なこととは限らない。「好き」でないものでも、需要があれば成立するし、「好き」なことでもそれがなければ成立しない。お金にするというのは、つまりそういうことなのかもしれない。今回はそんな偶然の出会いからはじまったキッチンカーと固定店舗も運営するクレープ屋さん、Qoo's Cafeさんにお話を伺いました。

text & edit by Nariya Esaki


「26年くらい普通にサラリーマンをやってて、子どもたちが成人したので、もう少しハードじゃない仕事に変えていいかなと思って、脱サラしたんですよ。調理は好きだったので、料理の仕事をしようと思ってたんですけど、ちょうどそのころ、うちの父が病気になって、入退院を繰り返してたので、店舗は持てないということで、キッチンカーを探したんですよ。中古のキッチンカーを探してたら、ちょうど巡り合ったのがクレープ屋さんがやってたやつなんです。車を見に行ったら、中にクレープの道具から何から、全部入ってたので、じゃあクレープ屋さんにするかみたいな感じで始めたんです」


 まさに偶然。居抜きのようにすべてが残っていたから、ここから始めようと思うのもすごいけれど、ひょっとするとわたしが知らないだけで、こんな偶然から始めている人も少なくないのかもしれない。そう思うと好きなことを見つけるよりも大事なのは、はじめることなのだと改めて思う。もちろん、はじめることができても、つづけることの難しさもある。そこに必要なのは需要と、それを産み出すこだわりかもしれない。


「脱サラして、キッチンカーを買うまでの間に、修行もあって、うどん居酒屋みたいなところでしばらく働いてたんですよ。武蔵野うどんのお店なんですけど、そこのうどんがすごいおいしくって、麺が黒っぽいうどんで、農林61号っていう、むかしから作ってる小麦を使ってるんですけど、ぜひこれをクレープに使えないかなって思って、農林61号を取り寄せて使ってます」

 

 クレープが好きじゃないからこそ、そのクレープをおいしくするにはという課題が産まれる。その課題を解決するには、まったく違う視点が必要なことも多い。でもこれが好きだと知らず知らずのうちに視野を狭めてしまっていることも少なくありません。見たいものしか見なくて済むSNS時代はなおさらそうかもしれない。クレープとうどんという、一見すると遠く感じる関係性も、小麦粉という共通点を見出せば、それは新しい発見につながりました。もちろん、こだわりはこれだけではありません。ちょうど夏季休暇を終えて、再開したお店にうかがった際には、旬のシャインマスカットが贅沢に盛られていました。それはもうクレープというよりもパフェと言ったほうがいいかもしれません。そこには果物への思いもあると言います。


「基本的には国産を使ってますね。クレープってやっぱりお子さんのお客さんが多いので、果物の旬を伝えたいっていうのはすごくありますね。よく、いちごないですかって言われるんですけど、いちごの季節はね、冬から春なんだよって伝えてます。今ね、野菜なんかも、スーパーに行くと季節じゃないものも全部出てるじゃないですか。夏だと、きゅうりとかトマトとか体を冷やすのにいいっていうものだけど、冬でもきゅうりもトマトも売ってますよね。だからそこらへんが、特にお子さんにね、伝えたいなっていうのはすごくありますね」

 

 キッチンカーからはじめたクレープ屋さんは、2018年から店舗も持つようになりました。キッチンカーも置けて、ひとりで回せる広さを探していたら、住んでいる小川町から離れ、気づけば北本市まで来ていました。それが今の店舗。その目の前には小学校があることもあり、小学生がよく訪れるといいます。


「やっぱり子どもたちは渡してくれるお金が暖かいんですよ。手で握って持ってくるので、よくジャラジャラって全部10円玉で払ってくれる子とかいて。そのへんがね、値段と安全性とか、味とか、そのへんのバランスが難しいよねって、よく知り合いのケーキ屋さん話すんですけど。お金に糸目をつけなければ、もっともっと美味しいものは作れるけど、買えない値段のものを作ってもしょうがないですからね」


 小学生がよく訪れることもあり、200円のハーフサイズも用意されています。そこには実はお店を持つときに、考えていた強い想いもありました。


「人がいてこそのまちかなっていう感じはすごくするので、人と関われる仕事の仕方ができればいいなとすごく思うんですけどね。ママさんたちの息抜きの場だったり、お子さんたちが宿題したり。あの、近所のママさんで、嬉しいことを言ってくれたお母さんいて、親でもなくて、先生でもなくて、いろんな話ができる大人がいるって、子どもにとってはすごいいいことだから、300円で長居させてもらって悪いけど、ありがたく思ってますって言ってくれて。そういうのがまちでお店をやる意味かなと」


 それはどこかかつての駄菓子屋さんが担っていたような場所なのかもしれません。小学生の間ではドリルがどこまで進んでいるかが飛び交わされたり、ママさんたちは、たたみの席で、子どもたちにテレビを見せつつ、世間話に花を咲かせる。人と人が当たり前のように関わる場所がクレープを介して用意されている。このコロナになって、その大切さは今まで以上に誰もが認識しているだけに、また日常が戻ったときには、お子さんと一緒に足を運んでみてもいいかもしれません。


Qoo's Cafe クーズカフェ

場所:埼玉県北本市中丸10-140-1

営業時間:月火金 12時~17時

                 土日 11時~17時

定休日:水・木(臨時休業有)

Instagram:@qoo1953

Facebook:https://www.facebook.com/qooscafe/

ホームページ:https://qooscafe1953.jimdofree.com