「いぬが好き」その思いのまま広がるドッグランの開き方ーー柴ドーナツ&ドッグラン@北本市

 午後2時、予定通り取材の時間につき、ちょうどお店の前にいたご主人とあいさつを交わし、奥さんがお店から顔を出したところで、愛犬を連れたお客さんがつづけてやってきました。やはりここに来るお客さんはいぬ好きが多いようでーーなかにはうさぎを連れているお客さんまでーーだからか、どのお客さんも奥さんとの会話が弾んでいました。まだ開店して半年ほどなのに、まるでわが子の話題で盛り上がっているように。もちろんそれは、店主である白石さんが、ドッグランを開いてしまうほど、いぬへの愛情があふれているかもしれません。今回はそんな柴ドーナツ&ドッグランさんにお話を聞きました。

text & edit by Esaki Nariya



「カブ(店長)を飼いはじめて、ドッグランに行ったんですよ。そしたらすごい楽しそうに走るから、ドッグランを自分たちでできたらいいよねみたいなことを漠然と言ってて。カブが走れる場所もできるし、散歩っていっても、コンクリートが多いから、ワンちゃんが安心して遊べるような場所が増えたらいいよねって」


 そんな風にこんなことをやってみたいと、漠然と思う人は多いかもしれない。でも店主の白石さんは思うだけでなく、その思いのまま「柴ドーナツ&ドッグラン」を2021年4月に、北本市と吉見町を結ぶ荒井橋通り沿いの北本フーズさんの向かいに開きました。柴ドーナツ&ドッグランという名前を聞くと、ドーナツが先にあるように思ってしまうけれど、ドッグランのほうが先にありました。でもオープン前から、目立っていたのは、ドッグランよりも、シルバーのラインだけを残し、真っ黄色に染まった。その特徴的な店構えでしたでした。




「トレーラーにしようとかは、なんにも決めてなくて。コンテナハウスとか見に行ったりしてる流れで、たまたま元クレープ屋さんが使ってたクルマなんですけど、なかもほぼほぼできてて、これいいじゃんってなって、これに決めました」


 それももともとはシルバー1色のカラーだったものを、クレープ屋さんがシルバーをラインだけ残して真っ黄色に塗り替えたクラシッックキャンピングカー(エアストリーム)。クラシックなキャンピングカーというだけでも充分目立ちそうなのに、この色はさらに目立っていたのは想像に難しくありません。実際、オープン前にホームページのURLを紙に印刷して、貼り付けていただけなのに、アクセス数は驚く数字をはじき出したのだとか。


「脂っこいし、あまいし、食事にはならないし、ドーナツ好きじゃなかったんですけど。主人がドーナツってあんまりないからいいんじゃないって、じゃあ、あまくないドーナツを自分で作ればいいかって」


 ドーナツにした理由を聞くとそんな答えが返ってきました。まわりに競争相手がいないことと、好きじゃないからこその新たな視点は、たしかに商いをやっていく上では重要な点です。むしろこのふたつの視点と、開業資金さえあれば、商いをはじめるタイミングと言ってもいいかもしれません。でもそれは決してかんたんな道のりではありませんでした。もちろん好きでもないドーナツは、作ったこともありません。


「はじめはそれこそレシピサイトとかを見て、真似して作って、そこから少しずつ変えてった感じですね。油だったらバターとかショートニングとかより、やっぱり米油いいよなとか、自分が使いたいのを代替えしていってったら今のカタチになったって感じですね」

 

 初めてだからこその発見もありました。


「全然知らなかったんですけど、小麦粉も品種によって油を吸いにくいのと、けっこう吸っちゃうのがあるみたいなんですね。だから小麦粉もいろんなのを試しました。スーパーとか、デパ地下に買いに行ったりして、今の埼玉県産のが一番良くて。油の吸いが少なくて、全然脂っこくなかったんです」


 ここにいたるまで1年ちょっと。オープン2ヶ月前でした。でもトレーラーに持っていくとまた新たな課題が産まれました。


「実際、ここであげてみたら、思ってたのと全然違って、泣きそうになりましたね」

 

 それまでの実験を繰り返した家庭用と、お店で使う業務用のフライヤーでは、火力が違い、できたと思っていたドーナツも、また火力に合わせた試行錯誤がつづきました。


「もう何これ、できないじゃんとか思って、最悪ホットケーキミックスでいいやぐらい思ったんですけど。いやいやでもそれじゃダメだと思って、オープン前に暗いなかひとりでやってました」


 そうしてたどり着いたのが、ホームページにも詳細に書かれた材料をもとにした柴ドーナツです。値段は120円と、コンビニやスーパーで手にするドーナツと変わらない価格。それもあってか取材中も近所の小学生が小銭を片手に買いにきていました。これもまた駄菓子屋なき時代の駄菓子屋的なあり方なのかもしれません。もちろんそこで食べられるのは駄菓子ではなく、おいしいドーナツです。しかも抑えた価格はドーナツだけではありません。お客さんとして食べたメンチカツがあまりにも美味しくて、その場で売りたいことをお話たら、快諾してくれたと言う、東松山国分牧場のメンチカツサンドはじめ、竹炭で焙煎したコーヒーなどどれもちょっと心配になるほど、抑えた価格で手にすることができます。でもだからこそ、ここには小学生も、いぬ連れのお客さんも関係なく集まってくるのだと思います。


「ずっと生まれも育ちも浦和だから、大宮から向こうって行ったことなくて、免許のときに鴻巣行くじゃないですか。そのとき遠いって思って、一生来ないとか思ってたんですけど、でも全然来てみるといいとこありますよね」


 ドッグランをやるための土地を探してたどり着いたのが北本でした。それまではまったく縁もゆかりもなかった場所も、今ではすっかりお気に入りの「まち」になりました。


「新しいお店がはやりやすい気がするんですよ。若い人が来て、いろいろ盛り上げようっていうパワーを感じるんですよね、北本は。よく市役所の前で、イベントとかやってたり、農家さんとお店が組んでやってたり、どんどん輪が広がって来そうな気はしますよね」


 北本とのつながりはこれからかもしれないけれど、東松山のメンチカツのつながりをはじめ、実はこれまた特徴的な看板の作成で上尾のお花屋さんと繋がったりと、その輪はまだまだ広がりそうです。


柴ドーナツ&ドッグラン

場所:埼玉県 北本市荒井4-263

営業時間:10:00〜16:00

定休日:月曜・木曜・金曜

instagram:@shiba_donut_dog_run

ホームページ:https://shibado.jp

Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。