そのキッチンカーを初めて見かけたのは、偶然でした。いつも買い出しに行く道中、畑が広がるその場所にポツンと一台だけ、でもたしかな存在感を放って、よく晴れた空に似合う南国風のキッチンカーが停まっていました。車で信号に止まっているときに見た一瞬で何を売っているかも分かりませんでしたが、そのあまりのインパクトに、ずっと気になっていました。次、停まっていたら行ってみようと、足を運んでみると、畑が広がるその場所には不似合いなほど、人が列をなしていました。その先をかき分けて見るとハンバーガー屋さんが停まっていました。今思うと、それがわたしとキッチンカーのほとんど初めての出会いだったかもしれません。今回はそんなキッチンカーを運営しているスモーキーダイナーさんにお話を伺ってきました。前編はキッチンカーを開くまでを聞きました。
取材・構成:えさき
「キッチンカーで一番大変なところは、営業場所探し。自分の商材がその営業先に合うかどうか。っていうのを見極めるのが一番大変だと思います」
「あの場所は実家の土地なんですよ」
スモーキーダイナーさんこと、小川さんは、北本生まれの北本育ち。でも就職後は北本市を離れていました。しかし、キッチンカーをはじめて3年目の2020年。皆さんもご存知のようにパンデミック(コロナ)が世界を襲い、もともと拠点にしていた都心からも人の姿は消えました。
「たまたまそれを父に相談したんですけど、そしたらあそこで1回試しにやってみるかって言うんで。いやぁ、ここだとどうかな、たしかに大通りはあるので、いいかなぁとは思ったんですけど」
都心のそれも拠点にしていた浅草などの観光地に比べれば、人通りはまったく見込めない場所でした。でもいざ始めてみると、わたしが見た光景の通り、列をなすほど、多くの人がハンバーガーを求めに来ました。
「あそこ幼稚園バスが毎日通るんですよ。まわりが畑ばっかりで目立つじゃないですか(笑)幼稚園生がママとかに言ったりして、それで口コミでけっこう広がってくれて。こんな来るのっていうぐらい来てくれましたね」
試しにやった場所が今では口コミで広がり、定期的に開く場所になりました。そして拠点は都内から北本市へーーでもその話はもう少しあとにとっておいて、まずはそのキッチンカーの始まりについて聞いてみました。
「その当時、結構キッチンカーを見かけてて、っていうぐらいですかね。第一にリスクもそうですし、キッチンカーであれば結構いろんなところにいけるなっていうのがあって、全国回ってるような方もいるんですよ。そういう幅広い選択肢が生まれるなって思ったのも、ひとつのきっかけですね」
もともとダイニングバーが好きで、学生時代にはアルバイトをするほど、飲食店への憧れがありました。けれど、それはまだその当時は学生ということもあって、多くの人が思い描く、具体性のない、なんとなくの夢。でも飲食とはまったく関係ない職場に勤めはじめて、気づきます。
「ルート営業だったんですけど、3年ぐらいやって、ちょっと違うなって思って辞めましたね。やっぱり飲食をまた一からやってみるかっていう」
勤めたのはハンバーガー屋さんではなく、和食屋さんのチェーン店。給与面や待遇面を考えるとどうしてもそこになってしまいました。でもアルバイトと違い社員は、キッチンやホールはもちろん、シフトの管理を始めとした管理職の仕事もあり、むしろ一番やりたい調理になかなか集中することができず、5年勤めて、退職を決意しました。
「そっからは、調理場だけのところにしよう、というか、大きい会社じゃなくて、個人店よりの店舗に転職して、そこでは調理場をずっとやってましたね」
しかし、ここでもハンバーガーを作ることはありませんでした。でも気づけば30歳。大きな節目を迎え、ある決断をします。
「もう自分でやっちゃおうって」
でもなぜそこで経験のない、ハンバーガーにしたのだろう。
「メインは何しようって考えたところ、記憶をたどったらハンバーガーに衝撃を受けたことを思い出して」
かつて学生時代にアメリカ旅行に行った際に食べた本場のハンバーガー、その衝撃を思い出しました。そこからは、都内にあるハンバーガー屋さんを50店舗以上巡ります。
「調理はやってたので、ある程度工程っていうのはこういう感じかなってわかるので、試作もすごい試行錯誤して、作って。それで今があるっていう感じですね」
そして固定店舗よりもリスクの低いキッチンカーを始めます。とは言っても実際、いくらぐらいかかったのだろうか。
「軽トラと、箱と、全部別の会社で買って、塗装とかは知り合いの方に頼んで、木とかも一緒に張ったりしてっていう。ちょっとこだわったキッチンカーなんです」
そんなこだわりのキッチンカー、たしかによく見ると手作り感もある箱。そこにコールドテーブル(冷蔵庫)やフライヤーや調理器具などを入れました。かかった費用は約300万。それを高いと思うか安いと思うかは人それぞれだけど、固定店舗を持つよりもはるかに抑えられているのはたしか。でも固定店舗にはない苦労もあります。
「キッチンカーで一番大変なところは、営業というか、営業場所探し。自分の商材がその営業先に合うかどうか。っていうのを見極めるのが一番大変だと思います」
キッチンカーは固定店舗ではないだけに、待ちの営業ではなく、攻めの営業。つまりフリーランスの飲食店と言ってもいいかもしれません。攻めの営業と言えば聞こえはいいけれど、営業しなければ、営業場所を確保できないのは移動販売ならではの悩み。まして始めた当時の2017年頃はまだキッチンカー自体があまり認知されていませんでした。
「汚されるから嫌だとか、発電機の騒音がするからやめてくれてとか、ぼくの場合は、煙がでるからやめてくれとか、そういうので結構NGがあったんですよ」
固定店舗よりもリスクが低いと思って始めたけれど、移動販売は移動販売ならではのリスクもありました。でもある転機が訪れます。
(つづきます)
0コメント