「一番最初の子」People@千歳烏山

なければ自分で作ればいいて思えるのは、その経験があるから。だからそれがなければきっと今の自分はないと思います。

堀毛 成美(おへそカフェ)


text & photo by Nariya Esaki



「その子から教わったことが今の全てですね」


誰の人生にもいろいろな転機はあるけれど、でもそこまで思えることは果たしてあるだろうか。


彼女は京王線「千歳烏山」駅の西口を出て、左にほんのちょっと行くと見えてくる風船が目印のボックスショップカフェfavori(現在は閉店して彼女が開いた「おへそカフェ」となっている)で働いている。と言ってもほとんど無償のボランティアなのだけど、でもそこがfavoriの魅力でもあるのだろう。そうしてまでそこに居たくなる空間がそこにはあるのかもしれない。もちろん彼女もそんなfavoriに魅了されたひとりだ。


でも彼女はそれだけじゃない。2014年11月から定期的に開催された「カラスヤマ手作り市」を主催しただけではなく、これから仙川地図を制作した面々と「カラスヤマ地図」を作ろうとしている。ちょっとびっくりするぐらいアクティブな彼女を支えているのがその子の存在だった。と言っても残念ながらその子はもうこの世にはいないのだけど...

photo by Narumi Horike


「一番最初の子」


彼女がそう呼ぶその子は、残念ながら障害により3歳の誕生日を待たずしてこの世を去ってしまった。でもその子の存在がその後の人生を大きく変えたのだ。


「ないなって思ったら作ればいいと思えるのはその子のおかげで」


彼女がそう思うようになったのは、その子が産まれてから亡くなるまで真っ白な病室で、まるで刑務所の柵に囲まれたような檻のような病院のベッドにいるのに、それでも1日、また1日と経過する中で育っていくのを目の当たりにしたからだと言う。


photo by Narumi Horike


「最初入院したときは、わたしはなんでこんなところに24時間いなきゃいけないんだって自分が先に参っちゃって、ちょっと蛍光灯を換えてやれとか、ここの壁をどう飾ろうかとかして、もやもや悶々としてイライラしてたんですけど、子どもは全然なんでもないんですよね。そこでも遊び場所を探してるし、楽しそうにしてて、1日経ったらちょっと大きくなってたりするし、2日経ったらまたちょっと大きくなってたりして、わたしがそう思ってる間も凄い成長してて、どんな場所でも、いい環境でも悪い環境でも、子どもは育っていくんだから、じゃあ今が一番最悪な環境だとしたら、最高に変えてあげるのが自分の仕事だなと思って、それがお母さんの仕事だなと思って。今一番その子にやってあげられるのは、ここを遊園地みたいな、こんな楽しい場所はほかにないって思える場所にすることが、わたしの仕事だって思って。そう思ったらまず自分が笑って楽しんでないといけないし、飾ることよりもここでどんだけ遊べるか、こんなちいさな範囲で動けないけど、そこでどれだけ笑わせられるかがわたしの勝負っていうか、それを訓練されて、そのときにその子に教わって。だからないなって思ったら作ればいいって思うのはその子のおかげで、だから手作り市はなかったら作ればいいし、こういうのがないからこのまち嫌だよねじゃなくて、なければ自分が作ればいいって今は思えるのは、その経験が全部あるから。だからそれがなければきっと今の自分はないと思います」


だからこそ最初はそんなに好きじゃなかった烏山を好きな場所にしようと彼女は動き出したのだ。



(つづきます)






おへそカフェ

*取材時は「箱店×小仕事カフェfavori」


 営業時間:ホームページをご参照ください 

 場所:東京都世田谷区南烏山6-6-15 

 ホームページ:https://ohesocafe.jimdo.com/ 


 堀毛 成美(ほりけ・なるみ) 

カラスヤマ手作り市代表、おへそカフェ店主、カメラマン、イベントの企画運営などその活動は多岐に渡る。




Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。