写真作家Kiiro「30の季節」 presented by favori

2015年11月パリで開催されたfotofeverの展示風景


「おじいちゃんになったとしても、自分の好きな表現について語り合える人生って、なんか素敵だなと思えるんです」

一億層評論家時代と言われて久しい。そんな時代に彼が選んだのは評論するのではなく、自分で表現することだった。それも写真でも美術でもなく、それは芸術としか呼びようのない表現で。今やその語りは、パリをはじめ海外にまで足を伸ばしている。




30歳になって思ったのは、自分が子どものときに、どういう大人のヴィジョンを描いてたのかなってことだったんです。

Kiiro


edit & photo by Nariya Esaki



「30歳のときに思ったのは、自分が子どものときにどういう大人のヴィジョンを描いてたかなってことだったんです。何がやりたかったのかなって、その人生をやりてないとしたら、そのまま生きて死んでいいのかなと思って」


30歳は確かに成人を迎える20歳よりも、大人になるために子どもの自分を捨てる季節かもしれない。まだ多くが学生の20歳と違って、周りは仕事で部下を持ち始めたり、友人の結婚式に招待されたり、あるいは子どもが産まれたり、少なからずそんな経験をするのだから、さすがにそろそろ自分も大人にならなきゃと思うには充分な理由が揃っている。しかし彼はそれを選択しなかった。むしろ仕事詰めになっている自分を見つめなおしたのだ。


「そしたら自分は絵が好きだったし、なにかこう、自分のできる表現で子どもたちの表現に関われるような、そういう人生を過ごしたいなって漠然と思って。で、今やってる仕事はそういうのとはかけ離れてるから、それもちょっと1回やめて、自分の作品を発表しようと思ったんです」


favoriで行われたトークイベントの様子


絵を描くことはそれこそ幼稚園のころから好きだったし、高校生になってからは本格的に油絵を学びはじめる。それくらい絵が好きだったのになぜその頃は仕事詰めになっていたのだろうか。


「やっぱ習い始めとか、やり始めとかって楽しいじゃないですか、だけどだんだん追求していくと、楽しいだけじゃなくて、つらいとか大変な部分とかもいっぱりあるじゃないですか。自分の油絵のやり方っていうのも、描いては削って描いては削ってっていう、削ることで油絵の深みを出すやり方をやってて、だんだん自分が何を描きたいのか、何を表現したいのか分からなくなって来たんですよね。それこそ1個作品を完成させるのに半年とか1年くらい、とにかく時間もかかってしまうし、作るたびに体調も悪くなっていくというか、負の循環っていうか、自分が何をやりたいのかだんだん分からなくなって来た時期が20代中盤のときとかにあって、それで映像作品だったり、立体だったり、彫刻だったり、自分の興味が沸くままにいろいろと制作してたんですけど、これは自分の作品だなっていうのがなかなかできなくて。どんどん病気して、入院とかもして、あ、このままじゃちょっとやばいなっていう気がして来たんですよ。描いているとそいう記憶が蘇って来て、もう描かないで置いたんですね」


30歳になれば余計に、多くの人と同じような普通の人生を選択してもおかしくないのに、なぜか彼はむしろもう一度、絵を描くことを選んだのだ。



「コスモスと出逢ったことで、自分を変えてくれたんですよね」


それまでは花なんて興味がなかったのに――実は作品からは想像もつかないけれど彼はクラッシュからブルーハーツまで男臭いパンクミュージックが好きなのだ――ましてコスモスなんてメルヘンチックでかわいらしくて、華やかな感じで好きじゃなかったのに、そのコスモス畑はまるで別もの移ったのだとか。


「でもそういうイメージを持ってただけなんですよね。実際、30のときにコスモス畑にたまたま行ったとき、何か全然違うなって思ったんですよ。全然そんな印象はなくて、むしろ、もの凄い咲いてるんですね。風とかそれも強風になぎ倒されてるのに、そこからまだ這い上がって来る力強さがあるんですよ。根を生やして、光に立ち向かってて、花を咲かせていく。で、茎も実はもの凄い太いんですよね。花は可憐で繊細なんですけど、茎とかは凄い太いし、生命力がある。そこに感動して、そういったものがコスモスから呼び起こされて、自分もまだ諦めずにやれるんじゃないかと思って、作品を発表しようっていう気持ちにさせてくれたんです」



(つづきます)



Kiiro

写真作家、1978年神奈川県出身。

多様な性質をもつコスモスの叙情的世界をフォトコラージュを駆使し制作。日本を拠点に、フランス、ベルギー、韓国、ニューヨークで展示。2015年にはフランスで開催された写真コンテスト『Wipplay』にて審査員を務める。


Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。