常連さんができるまでーーキッチンカーに乗って Vol.1「スモーキーダイナー」後編

 そのキッチンカーを初めて見かけたのは、偶然でした。いつも買い出しに行く道中、畑が広がるその場所にポツンと一台だけ、でもたしかな存在感を放って、よく晴れた空に似合う南国風のキッチンカーが停まっていました。車で信号に止まっていたときに見た一瞬で何を売っているかも分かりませんでしたが、そのあまりのインパクトに、ずっと気になっていました。次、停まっていたら行ってみようと、足を運んでみると、畑が広がるその場所には不似合いなほど、人が列をなしていました。その先を見るとハンバーガー屋さんが停まっていました。今思うと、それがわたしとキッチンカーのほとんど初めての出会いだったかもしれません。今回はそんなキッチンカーを運営しているスモーキーダイナーさんにお話を伺ってきました。後編はいよいよ「まち」と「キッチンカー」について聞きました。


取材・構成:えさき


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「生まれ育った場所で、ちょっと離れたとしても、いつかは戻って来たい、そういうまちであって欲しいですね」


  なかなか認知されず、営業場所を確保するのが難しかったキッチンカーは、あることがきっかけで転機が訪れます。それが前編の冒頭にも書いたコロナの影響です。たしかにコロナになってから、キッチンカーをまちでよく見かけるようになりました。それはわたしの住む北本市も例外ではありません。


「今は割と、キッチンカーが増えたことによって、メディアとかでも取り上げられて、結構、いてもおかしくないみたいな感じになりましたね」


 飲食店もコロナの影響で、テイクアウトを増やさざるを得ない状況になりました。テイクアウト需要が高まるなか、もともとテイクアウトに強いキッチンカーが増えたのは自然な流れかもしれません。実際、kosa10magazineでも取材させていただいたトラットリア・イッチアさんは固定店舗からキッチンカーへと転身しました。実は今回の取材のきっかけにもなった北本駅西口で週に2回開催される北本ナイトマルシェも、イッチアさんの声がけがあってこそなのだとか。


「北本ナイトマルシェは、イッチアさんが北本を盛り上げましょうよっていうので、市役所の方に許可を得て。イッチアさんの声がけもあって、だんだん大きくなりました。最初は最初は不安だったけど、今となっては、あの場所でやってよかったです」


 もともとは北本市市役所前で毎月開催される「&グリーンマーケット」や、その近くで開催されていた「つみいしマーケット」などで一緒に出店していたことがきっかけでした。


「すごい出会いですよね。それで今、北本だと1週間に1回くらいの感じで買ってくれるような常連の方もいて、すごいやってよかったなと。逆に今はもう都内行きたくないくらいですね。向こうは向こうで、観光客のお客さんとかが多いので、やっぱその日その日のお客さんが多かったんで、もう1回来てくれるっていうのが感動じゃないですけど、あ、また来てくれたんだみたいな感じで。喜びというか。本当やってよかったなって思いますね」


 たしかにキッチンカーというと、イベントに出店してその日限りと言うイメージ。でも北本ナイトマルシェは週に2回開催されるだけに、行きつけのテイクアウトのお店ができてしまう。もちろんお店は日によって変わったりするけれど、でも月に何度かは食べるチャンスがあると思うと、行きつけのキッチンカーを見つけるにはもってこいの場所でもある。実際、駅前で開催しているにもかかわらず、はじめた当初は駅から降りてくるお客さんよりも、車で来るお客さんが多かったくらい。


「キッチンカーで買うっていうのも普通になって来てるんでしょうね」


 キッチンカーが認知されるまでには時間がかかったけれど、今や、この2021年の9月からはじまった北本ナイトマルシェはもう、北本市にとってはなくてはならない存在になりつつあるのかもしれません。その証拠に当初週1回の開催が、今では週2回の開催になっています。そう思うと、ずいぶんとキッチンカーへの目はこのパンデミックを経て大きく変わったと言えるかもしれません。


「生まれ育った場所が、ちょっと離れたとしても、いつかは戻って来たいまちであって欲しいです。みなさんにとって。若いときは正直、都内に憧れた部分はあって。でもこっちに戻って来て、やっぱりすごいいい場所だなぁって。自然もあって、桜もきれいで。交通アクセスも便利なので。改めていい場所だなと思いましたね」


 まちについて聞くとそんな答えがかえってきました。なんだか「みなさんにとって」というのがスモーキーダイナーさんの人柄が凝縮されているような気がしました。きっとだからこそ、常連さんが足を運んでくれるのだと思います。気になった方は、その名の通り、炭の煙が香るハンバーガーを食べてみてください。ひょっとすると行きつけのお店、いえ、行きつけのキッチンカーに出会えるかもしれません。


(おしまい)


ある1日のタイムスケジュール


 8:00 起床

      仕込み

      買い出し

      車への積み込み

      営業場所へ移動

12:00 営業開始

17:00 営業終了

      帰宅後、清掃

      必要に応じて明日の準備

18:00 終業


SMOKY DINER スモーキーダイナー

場所:北本ナイトマルシェや&greenmarketなど北本市を中心に活動中

Instagram:@smoky_diner



特集:キッチンカーに乗って「移動する、あたらしい選択肢」


 キッチンカーというと、イベントで見かけるものと思っていただけに、スモーキーダイナーさんとの出会いは強烈でした。そこで初めてキッチンカーというものを意識したような気がします。だから今回「移動する、あたらしい選択肢」とサブタイトルをつけました。

 もちろん、移動販売という意味では、決して真新しいものではありません。歴史を紐解けばそれこそ、江戸時代くらいまで遡ることもできるでしょう。あるいは、石焼き芋を思い浮かべる人も多いかもしれません。そう考えると決して新しいものではありません。でも選択肢というのは、稀なケースではなく、あくまで珍しくない、一般化したタイミングで選択肢と呼ぶことができるようになるのだと思います。そう考えると今回取材させていただいたスモーキーダイナーさんの言葉にもあったように、買う人が普通になったように、開く人にとっても普通になったということだと思います。だからもう固定店舗にするか、それともキッチンカーにするかというのが、普通に選択肢として出てくるタイミングになったのだと思います。だからこそ、その選択肢についてもっと知りたいと思い、この特集を開始することにしました。固定店舗よりもハードルが低いなら、多くの人にとって「あたらしい選択肢」になり得る気がしています。もちろん固定店舗にはない、リスクも多くかかえていますが、でもこのコロナ禍で足を止めたからこそ見えた景色があるなら、それを乗せて行ってみるのもいいかもしれません。それはもう決して珍しいことではないのだから(えさき)

Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。