「思いつかなかったら」cafe skratta@千歳烏山

いつかは結婚して子ども産めたら産みたいとかは思うけど、何をして生きてるかは、そのときはあまり見えてなかった。


cafe skratta


edit & photo by Nariya Esaki




「ヒトって感じですね」スッと出て来たその言葉に思わずハッとさせられた。cafe skrattaが出来たのは2011年末のこと。


「本当にギリギリ12月27日なんですよね。駆け込みみたいになって。本当はもっと早くオープンできる予定だったんですけど。間に合わなくって、でも身内で結構作ってくれてて、だからこんなにみんなで頑張ってるのに押して押してオープンできないなんてって思って無理くり」


この年までにはという強い思いというよりは、みんなでやったからというのが理由になっているのがcafe skrattaらしさかもしれない。


そもそももともとは保育士。それも頭に公務員がつく、そんな誰もがうらやむ安定の職を辞めて――しかも保育士は子どもの頃からの夢だったにも関わらず――違う仕事をしようと受けた試験に二度落ちただけでスパッと諦めて選んだのがカフェ。第三志望を選んだと言ってもいいかもしれない。


「こういうことを言うとよくないですけど若かったし、これは本当に良くないけど女だし、その今しかないんじゃないかと思って、好きなことをして働けるときって。まぁ、思いつかなければそのまま終えることになりますけど。ずーっとこのまま働いてくのかなとか、何て言うんだろう。目の前のことに必死過ぎて、そんな人生設計をとかを考える余裕もなかったっていうのもあるかもしれないけど、自分がいつか結婚して子どもを産めれば産みたいとかは思うけど、何をして生きてるかはそのときはあんまり見えてなかったですね」



でも実はカフェを始めようと思ったきっかけは、保育士を辞めたあとのはなし。だからまさに思いつかなければカフェという選択肢はなかったかもしれない。


「辞めて、ちょっとぷらぷらしようと思って行った先のカフェで働いてる人たちが、すっごいきらきらしてて、なに?この人たちみたいな。カフェって好きだから結構行くけど、そんな活き活きと働いてる人たちを見たことがなくて、そのカフェ凄いなって、わたしもカフェやろうみたいな、そんな浅はかな、安易な理由なんですよ(笑)」


いやいやいくら浅はかでも、いや、むしろそんなスタンスだったからこそ始められたのかもしれない。いろいろ考えて考えすぎて、出来ない理由を探して何も始めない人の方が多いのだから、きっと浅はかなくらいの方がいいのだろう。だとしてもそれはかなりの決断が必要だったはずだ。しかも彼女はすぐには始めなかった。まずは修行と思って1年間カフェで働くことにしたのだから。


「1年くらい働いて、そのあとやっぱりお金もまだそんなに貯めきれてないから、また1年、保育で働いて、公務員になるにはまた公務員試験を受けなきゃいけないんで、普通に民間のところを受けて...そこからここを開くに至るみたいな感じでしたね」


つまり思い立ってから2年間思いが変わらなかったということ。ましてもう1度、保育士をやっても思いが変わらなかったのは考えてみれば凄いことかもしれない。いくら高校の卒業文集に書くには体のいい夢だったとしても、教育学部を出てラッキーだったとしても――少なくとも公務員講座を授業とは別にわざわざお金を出して受講していたのだから――公務員試験に受かるのはそう簡単なことではなかったはずだ。そんな保育士なのだからそれが民間だとしても揺れることはいくらでもあったはずなのに、彼女は2年間その意志を変えることがなかったのだ。



でもいくら思いつきでもお店を開くのはそんなに簡単な話ではない。まずはどこに開くかを考えなければいけない。それも立地は前提条件になるだけに、カフェを開く上では最も重要でかつ最も難しいところかもしれない。


「(千歳)烏山は最初は全然頭になくて。飲食店が凄い多いじゃないですか、だから難しいと思って。だから全然他のところを見てたんですけど、前の職場が世田谷線だったんで、世田谷線とか京王線を中心に回ってて、全部の不動産屋さんに入っていったんですよ。行く駅、行く駅で。世田谷線とか乗らずにずっと歩いて、こういうところあったら教えてくださいみたいな。烏山も一応、念のためにと思って。でも連絡来るところは本当にごくごく一部でしたけど、その烏山で行った不動産屋さんからメールをいただいて、ここを紹介してもらったんですけど、こんなにいいとところはないんじゃないかって思って」


めぐり合わせ。不動産は一期一会というけれど、まさにそんなめぐり合わせがあったと言っていいだろう。でもめぐり合わせは物件だけではなかった。


「中学の同級生の友達がリフォーム会社に所属してて、もうひとり図面を書く幼馴染もいて、先にその子に凄い相談してたら、その同級生と仕事してるってことになって、じゃあそいつにやってもらおうよって」


まるで夢のような話。でももちろん業者にも入ってもらってはいるけれど、しかしやはり、何かを始める人というのはいろいろな偶然を呼ぶのかもしれない。


「本当に恵まれてるんですよ。本当にここを始めて思いますね」




(つづきます)



cafe skratta


営業時間:2017年1月に閉店

取材:2014年9月8日

Nariya Esaki

kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。

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「好き」と生きる、「まち」と暮らす。